特別賞

島崎さん

横浜西口学習センター(2年生)

 「もしも一つ願いが叶うなら、あなたは何を望みますか。」この問いかけをされたら、多くの人は世界平和を願ったり、大金持ちになりたいと夢みたり、スーパーヒーローのように空を飛びたいと答えるだろう。そんな立派な、あるいは華やかな願いと比べると、私の願いはとても地味だ。けれども私が今、本気で叶えたいのは「食欲をなくすこと」である。

  理由を話すと、まず第一に、私は帰宅するとすぐ眠りたい。もう、ドアを開けた瞬間に布団にダイブしたいくらいだ。だが、そんな私の前に立ちはだかるのが食欲である。空腹のまま布団に入ると、眠りが浅くなり、夜中に目が覚める羽目になる。結局、冷蔵庫を開けておにぎりやお菓子に手を伸ばし、翌朝になって「なんであんな時間に食べたんだ」と後悔する。もし食欲がなければ、私は迷わずノンストップで夢の世界へ直行できるのに。

 次に、勉強や作業の邪魔をするのも食欲だ。テスト前に集中している時に限って、胃から「ぐう」と音を立てて存在をアピールしてくる。しかもその音が静かな教室で響くときの恥ずかしさといったらない。仕方なく軽く食べると、今度は満腹で眠くなる。結局、勉強時間が、「空腹→食事→睡魔」という三段活用で消えていくのだ。こんな大敵を前にしていては、私の集中力は勝ち目が無い。

 もちろん、食欲は人間にとって大切な欲求である。食べなければ生きていけないし、栄養を取らなければ体も壊れてしまう。それは頭で理解している。けれども私にとって食事は「楽しみ」というより作業に近い。しかもこの作業、材料調達から調理、食べる時間、片付けとご丁寧にフルコースでついてくる。もしこれを全部省略できたら、私は一日で何時間も自由を取り戻せるだろう。

 ただ、もし本当に食欲が消えてしまったらどうなるだろう。友人と一緒にご飯を食べて笑いあう時間もなくなるし、新発売のアイスやスイーツ等を楽しみにするワクワクもなくなる。人類の文化を見渡せば「食」は切っても切り離せない存在だ。給食のカレーに大喜びした小学生のころの私を思い出すと、「全部無くしてしまうのも少し寂しいかな」と思わなくもない。

 それでも私は、やはり食欲を無くす願いを選びたい。なぜならその奥には「もっと自分らしい時間を生きたい」という本音があるからだ。眠りたいときに眠り、集中したいときに集中する。そんなささやかな自由を手に入れられるなら、世界平和や空を飛ぶことよりも、私にとってはよほど切実で魅力的な願いである。

 もし神様が現れて「願いを一つだけ叶えてあげよう」と言ってくれるなら、私は迷わずこう答えるだろう。「どうか、私から食欲を取り去ってください」と。きっと神様は「え、それでいいの?」と首をかしげるに違いない。やっぱり少し迷うかも知れない。まぁいずれにせよ私にとっては、この願い事こそが最高に実用的で、そしてちょっと笑える願いなのだ。